
「探究」をテーマに、稲川東一郎監督の創造性を再考
スポーツのデータ分析を15年以上手がけ、NHK-BSで放送されている「球辞苑」にも出演実績もある金沢慧氏が『球都桐生』にまつわるオリジナルレポートを制作した。
レポートのテーマは『探求』。
現存された資料や書籍、OBへのインタビューで得た歴史情報と金沢氏の知見・経験を融合させ、球都桐生の祖でもある稲川東一郎監督の創造性に再びフォーカスする。
名アナリストの頭脳と球都桐生の歴史が詰まった“探究書”はPDFとして、19ページ・15,000文字以上にわたる。
金沢氏渾身の1冊を、桐生野球史の新たなバイブルとしてご活用いただきたい。
筆者からのメッセージ
元桐生高校監督の稲川氏は、勝利のために既存の枠に捉われず、探求的な試行錯誤を通じて創造性を発揮し、球都桐生の文化を築きました。
AIが決まった手順の仕事を代替する社会では、氏のような自ら考え工夫する力が不可欠です。
球都桐生プロジェクトが、子どもたちをはじめとする地域の人々が自らの「好き」をどこまでも追求し、その探求心から生まれる創造性で未来を切り拓くきっかけとなることを願っています。

はじめに
桐生高校の野球部で監督を40年以上務めた稲川東一郎氏(1905~1967年)は詳細なデータを活用した細やかな戦術や科学的トレーニングをいち早く導入した「知将」として知られ、選抜高校野球での準優勝2回などの戦績を残した。
地方の公立校を東日本で有数の甲子園常連校に育てた彼の人生からは、野球という「遊び」に真正面から向き合い、甲子園優勝を達成しようと執念深く試行錯誤を続けた姿が見て取れる。
大好きな野球を突き詰め続けた先に、既存の常識から「逸脱」して新たな常識を生み出し、結果を残し続けた姿には、現代のメジャーリーグ(MLB)で活躍する大谷翔平に共通する「純粋さ」と「先進性」を感じることができる。
監督としての実践内容や思考方法は単なる野球の話としてだけでなく、AIの進化によって「人間でなくてもできること」の範囲が広がり続ける令和の時代に、自分がやりたいことを「探求」した先にある「探究」を考える良い教材になる。
今回は2022年に始まった「球都桐生プロジェクト」の一環として、残された資料や書籍、OBへのインタビューなども踏まえ、まもなく没後60年を迎える稲川氏の「創造性」を再考したい。
【目次】
・「球種、コース、高低」のデータを取得した1958年のスコアブック
・野球道場で「ボディ・ビル」をさせていると語る1960年のインタビュー
・「革新を生む辺境」としての球都・桐生市
・五輪書を師として、野球を「まるごと」捉えた
・原動力は「無類の野球好き」
・稲川監督と大谷翔平の創造性
・スポーツは社会とつながることが求められている
・野球をきっかけとした「創造都市」への期待
『「遊び」を探求した稲川東一郎の創造性』のレポートはこちら(PDF形式)
プロフィール
金沢 慧 (かなざわ・けい)
1984年生まれ、福島県出身。筑波大学大学院体育研究科を修了後、2009年にデータスタジアム株式会社に入社し野球のアナリストとして活動を始めた。
NHK-BSで放送されている「球辞苑」には2015年より出演。2018年からは本所属を株式会社リクルートテクノロジーズ(現・株式会社リクルート)のデータ利活用の部署に移し、主にHRメディアでのデータ分析環境の整備や機械学習を用いたアプリケーション開発のPMOとして従事した。
2022年10月に独立し、現在は四国アイランドリーグplusのアナリティクスディレクターなどプロスポーツリーグ等でのHR領域のデータ活用を推進。
スポーツアナリティクスジャパン(SAJ)2022ではプロジェクトマネージャーを担うなど、スポーツをきっかけとした文化交流のカンファレンスやイベントの企画・運営にも携わっている。