Vol.006 頑張れヒルタク!

「結果で表します」西武の“ドラ1”蛭間がプロ1年目で痛感した、レギュラー陣との決定的な差

 試合中はスポットライトを浴びて戦うベルーナドームの照明が落とされ、グラウンド上で周囲より少しだけ高いお立ち台に登る。
 2023年7月17日、オールスター休み前の日本ハム戦で2安打2打点の活躍を見せ、ライオンズを勝利に導くヒーローの一人になった蛭間拓哉は目標としていた場所に初めて立った。
「ベルーナドームでのヒーローインタビューは、やっぱりいいなと思いました。初めて見る景色だったので、こんなに暗いんだと(笑)」
 西武のドラフト1位ルーキーとして1年目をすごし、最も印象に残っている光景の一つだ。
「ベルーナドームでもう少しホームランを打ちたかったですね」
 6月23日に一軍初昇格し、56試合に出場して打率.232、2本塁打、20打点。振り返るとプロ1年目はあっという間だったが、シーズンを戦っている最中は「一軍に残れるように毎日必死で、正直きつかったです」。
 長かったペナントレースが終わり、ベルーナドームでの秋季練習中、蛭間は安堵したような表情で振り返った。シーズン中より柔和な顔を見せたのは、裏返せば、9月まではそれだけ張り詰めた気持ちで毎日をすごしていたからだろう。

プロとアマの大きな違い

 同じ野球選手でもアマチュアからプロになると、大きく変わることがたくさんある。その1つが、公式戦が毎日のように組まれることだ。
「大学の公式戦は土日に組まれ、伸びても月曜まで。次の週末までに試合の振り返りをし、『このときはこうすれば良かった』と練習で試し、次の試合を迎えることができました。でもプロでは毎日試合があるので、夜に反省し、『明日どういう感じで行くか』を考えなければいけない。調整が難しくて、とにかく必死でした」
 過密日程の長丁場を戦い抜く体力面に加え、頭をうまく整理する必要もある。それは打席の中でも同じで、特に体調不良もあって成績が下降した9月後半は考えすぎてしまった。プロは投手のレベルがグンと高まることに加え、バッテリーが緻密な配球で攻めてきたからだ。そこに隘路への第一歩があった。
「データと照らし合わせながら考えて打席に入るなか、『キャッチャーはこういう考えで配球を組み立ててきているだろう』と考えすぎるあまり、手が出なかったり、割り切りができなかったりしました。2ストライクに追い込まれたら、もちろん技術はありますけど、反応でパーンと行くことが大事です。そこで本能で行けてない感じでしたね」
 プロ1年目の成績には、到底満足していない。攻走守のいずれも課題ばかりだ。 
 それでもルーキーにとって、多くの収穫があるシーズンだった。
「特に良かった一つは、プロ野球の生活を1年間できたことです。今年は結果を出すというより、とにかく経験できればいいと思っていました。一軍のピッチャーや試合での守備などを経験できれば、それで合格点だと考えていたので。プラス、想像以上に試合に出させてもらってヒットも出て、自分が思っていたより多くの経験をできたので、今後に生きていくなと思いました」

レギュラーをつかむ選手の“条件”

 シーズン開幕から6月後半まですごしたファームで身につけたものも多い。イースタンリーグでは打率.298と好成績を残した一方、蛭間自身に納得できるヒットは「1本もなかった」と振り返る。
 その頃、特に話を聞いてくれたのが小関竜也ファーム野手総合兼打撃コーチだった。
「バッティングのことをいろいろ話しながら、『自分はこう思います』と意見交換しながらできたことがすごく良かったと思います。自分で納得いなかい点を小関さんに伝えて、アドバイスをもらってから良くなりましたね。真っすぐに対応できるようになってから、納得するヒットが出始めました」
 結果に内容が伴い出し、6月後半、ついに一軍に呼ばれた。9月下旬に背中の違和感でシーズンの残り6試合時点で登録抹消となるまで、スタメン、ベンチで多くの経験を積むことができた。
 とりわけ痛感したのが、一軍で活躍できる選手とそうでない選手の差だった。
「そこが一番感じたことかもしれないですね。やっぱり毎日コツコツとやる人が、レギュラーをつかみ取る人なんだなと思いました。やることは人によって違います。例えば毎日バッティングマシンを打って結果を出す人もいれば、それをやらなくても結果を出せる人はいるので。いずれにせよ、自分は『これをやる』と決めたことを1年間ずっとやり続けられる人がレギュラーをつかみ取るんだなって思いました」
 源田壮亮、外崎修汰、大ベテランの中村剛也、憧れの栗山巧など、西武で確固たる地位を築いている選手たちにはそれだけの裏付けがある。周囲の話を聞くと、秋山翔吾(現広島)や森友哉(現オリックス)、山川穂高ら西武でハイパフォーマンスを見せた選手には相応の理由があったという。
 対して、自分にはレギュラーをつかみ取るための“土台”がない。長いペナントレースが終わって1年間の歩みを振り返ったとき、蛭間は改めてそう気づいた。
「結局、そういうことなのかなってすごく感じました。自分は今シーズンの1年間、『これを一つやり遂げる』というものが特になかったので。それではレギュラーをつかみとれるわけもない。そう感じたので、これからしっかり自分の計画を立てて取り組みたいです」

1年目の「慣れ」を経て、2年目の飛躍へ

 このオフ、特に重点的に取り組むのが体づくりだ。シーズン中に試合を消化しながらトレーニングを同時並行で行う選手もいた一方、蛭間にはそれだけの余裕がなかった。
「体がきつい状態で試合に行くことになるので、なかなか追い込めなかったですね。でも、それも慣れだと思います」
 ライオンズに入団した1年目の6月後半から一軍に帯同して56試合に出場するなか、プロ野球で活躍するために必要なことがなんとなく見えてきた。次に求められるのは、自分がそのレベルに達することだ。1年間戦えるための土台をつくり、さらにバットを振り込んで技術を高めていかなければならない。
「まだ2年目は、そんなに期待しないでください(笑)」
 冗談めかす蛭間に「では何年目から期待すればいいか?」と聞くと、真顔で答えた。
「それは結果で表します」
 プロ野球は結果がすべての世界だ。そう体感できたことが1年目の収穫の一つだった。
 蛭間はドラフト1位ルーキーとして多くの期待を背負ってプレーし、2年目の飛躍に向けて決意を新たにしている。周囲の思いを背負って戦えることは、プロ野球選手の醍醐味だ。
「今年、桐生が『球都』と掲げた中でプロ野球選手になれて、本当にいろいろ経験できました。だからこそ、もっと期待に応えられるように。ベルーナドームにぜひ見に来て、応援タオルを掲げてほしいですね」  ベルーナドームで少しでも多くのヒット、ホームランを打ち、ヒーローインタビューに呼ばれる回数を増やしたい。蛭間はそうした思いを持ちながら、来季開幕までに自分自身を磨き上げていくつもりだ。

「がんばれヒルタク」の今季の連載は終了です

Text by 中島 大輔

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年からセルティックの中村俊輔を4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識変える投球術』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『プロ野球 FA宣言の闇』『野球消滅』『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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